埼玉県飯能市。人口は8万人ほどの小都市だが、東京の八王子や川越といった都市に挟まれており、交通の要所でもある。

しかし、そんな飯能の駅前も他の地方都市と同じく、平日の昼間であれば駅ビルであっても閑散としている。
そんな駅前のビルの一角にひとつだけ異質な空間がある。

セレクトショップ、La vie en Rose(ラヴィアンローズ)だ。
決して広いとはいえない店内に感度の高い女性たちでごった返す。 夕方になれば帰宅する女性で入りきれないほどになる。

 

聞くと、新規客のほとんどがリピーターになるという。

地方のセレクトショップにおいて、顧客づくりは必須ではあるものの、 品揃えと接客のどちらも高い水準を維持しなければならず、言うほど簡単なことではない。

まず、品揃え。老舗のショップにありがちな店長とともに年を重ねた顧客で成り立っているわけではなく、若い女性の来店も多い。
そのため、アイテムはエイジレスであることに意識しているという。

「ファッションは娯楽です。ショップがこだわりすぎるのもよくない」そう言い切るオーナーの川田社長。
8年間ミラノで過ごし、長年アパレルメーカーに勤め、ファッションに精通している自身が選ぶ感度の高いアイテムは「厳選した」という言葉がぴったりだ。

実際に、店内はエレガンスとカジュアルなアイテムが混ざり合っているものの、トータルでは違和感なく、お店のコンセプトを形作っている。
長く使えるような、スタンダードなアイテムもあれば、TVドラマで女優が着用したアイテムも独自のルートで放映前に販売する。
そういったトレンド感も大事にしている。

次に接客。接客というと、商品をすすめるという行為に終始してしまいがちだが、長いお付き合いの顧客も多いためか、話はプライベートな部分にまで及ぶ。

本来、セレクトショップでの買い物は合理的とはいえない行為だ。
バイイングされているこだわりのアイテムを見て、顧客は買うかどうかを判断する。
必要だから買うのではなく気に入ったから買うのだ。
しかし、そこには、商品が気に入ったから買うというだけではない。
そこでは、家庭や職場では、見せることのない一面をショップスタッフにだけ見せる面もある。
いわば、サロンとしての役割もあるはずだった。

大型の郊外ショッピングセンターやネット通販の台頭に、ファッションは合理的に短時間で買い物するだけのアイテムになりつつある。
しかし、いまだに多くの人はそんな状況に満足はできないはずだ。

顧客の一人がオシャレなタイル張りのテーブルでコーヒーを飲みながら店長と談笑する。
何年も変わらずくり返されたであろうその光景に、こんな時代であっても、唯一無二の輝きを放つショップのお手本を見ている気がした。

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取材・文・撮影/赤地

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